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有機概念図による乳化処方設計とは?

1効率的な乳化処方開発のために

当社では1950年の創業後まもなく、「有機概念図による乳化処方設計」を考案し、界面活性剤の設計およびお客様のニーズに合った処方設計を効率良く行っております。この乳化処方設計法にはエマルションの性状予測の他に、温度安定性に関する情報とその修正法についても解説されており、これらを活用することで効率的な処方検討が可能になります。本ページではその概要をご紹介させていただいておりますので、是非、ご一読いただき、処方研究者の方々のお役に立てていただければと存じます。

2有機概念図について

2-1.有機概念図

有機概念図は比較的相互作用の複雑な有機物の性状を良く表現するものとして、特に環境化学分野、薬理化学分野などで広く利用されてきました。当社ではこの有機概念図が界面活性剤の評価にも的確な指標を与えることを見出し、以来、化学構造から「有機性値」、「無機性値」という二つの値を求め、乳化処方に含まれる各原料を物質野と呼ばれる二次元平面上の点として表現することにより、エマルションの物性、性状を視覚的に判定しています。

有機概念図の詳細については『藤田穆著:有機定性分析』等をご参照ください。

2-2.有機性値と無機性値

有機概念図では化合物の物理化学的物性について、主にVan Der Waals力による物性の程度を「有機性」、主に電気的親和力による物性の程度を「無機性」と呼び、これらの組み合わせで化合物の物性をとらえます。この「有機性」と「無機性」を個々の化合物について有機性値〔Organic Value = OV〕、無機性値〔Inorganic Value = IV〕という固有の特性値を付与し、多数の化合物を物質野へ“ロケイト”することで、領域毎に様々な傾向を確認することができます。これは逆に、未知の化合物についても、その構造式から有機性値、無機性値が求められれば、その性状の予測が得られるということを示しています。

図1.有機概念図にみられる特性

図1.有機概念図にみられる特性

領域  
A 砂状結晶圏
B 針状結晶圏
C 板状結晶圏
D 板状針状結晶共存圏
軌跡  
1 結晶限界線
2 溶融限界線
3 揮発限界線
4 匂限界線
5 液状限界線
6 気体限界線
 
図2.類似化合物が有機概念図上に占める位置

図2.類似化合物が有機概念図上に占める位置

No. α 界面活性剤、染料、他
1 0~40° 油溶性溶剤
2 10~75° 可塑剤
3 23~45° W/O SAA(HLB 3~6)
4 25~55° カチオン SAA
5 10~60° 非イオン SAA
6 40~44° 起泡助剤
7 55~75° アニオン SAA,洗浄剤
8 55~75° O/W SAA
(HLB 8~18)
9 25~35° 油溶染料,分散染料
10 35~65° 有機顔料
11 65~75° アルコール溶性染料
12 75~85° 浸透剤,湿潤剤
13 75~85° 水溶性染料
14 55~85° 水溶性高分子
 
2-3.有機概念図とHLB式との相関

界面活性剤の性質を表現する方法として一般に用いられているHLB(Hydrophile Lipophile Balance)値は、界面活性剤の親水基と親油基との性質の相対的な強さの比を表すものです。HLB方式において、原料の性質はHLB値の大小によって表現されますが、多種の化合物が乳化処方に含まれる場合、数値の大小だけで乳化処方の性質予測をすることは困難になります。
有機概念図では、界面活性剤に限らず、あらゆる化合物を二次元に展開して表すことが可能なため、複数混合物においてもそれぞれの化合物が占める位置関係(絶対位置,相対距離,相対位置など)から性状予測をより的確に得ることができます。
また、有機概念図における有機性値、無機性値の概念は、HLB方式における親水性、親油性の概念との相関が高く、有機性値と無機性値の比から求めた値〔IV / OV = IOB(Inorganic Organic Balance)〕とHLB値を比較すると、近似的に『HLB値 = IOB値 × 10』が成り立ちます。

図3.有機概念図とHLB式との相関

図3.有機概念図とHLB式との相関

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3有機概念図による乳化処方設計

有機概念図による乳化処方設計では、有機概念図上にロケイトされた各配合原料の位置関係や乳化剤の配合量傾向を以下の1~5の手順で視覚的に整理し、その値を「質と量の傾向表」と照合することによって、既知処方の性状、使用感の予測を得ることができます。

  • 手順1
  • 配合原料のロケイト

配合原料の有機性値(OV)、無機性値(IV)を求め、有機概念図上にロケイトします。

  • 手順2
  • 三等分線(A線、B線)の挿入

乳化剤のバランスを視覚的に分かりやすくするため、処方成分中で最小角度(α)の原料と無機性軸のなす角を三等分する2本の線を記入します。
(有機概念図による乳化処方設計において、「乳化剤」という語句は、実際のその成分の性質に関係なく、処方中で最も極性の低い油性基剤および最も極性の高い水(α=90°)以外の全ての成分を表します。)

図4.ロケイトと三等分線

図4.ロケイトと三等分線

成分名 配合量
(wt%)
OV IV α
1.ミネラルオイル 28.55 320 0
2.EMALEX CC-168 0.90 470 60
3.セタノール 1.85 320 100 17°
4.EMALEX 102 3.70 440 195 24°
5.EMALEX 400di-S 0.85 1040 645 32°
6.EMALEX 611 0.40 800 870 47°
7.EMALEX 720 0.20 1040 1545 56°
8.PEG-600 0.10 480 1025 65°
9.ステアロイル
 グルタミン酸Na
0.05 460 1000 65°
10.水 63.40 0 100 90°
合計 100.00  

B線

A線

 
  • 手順3
  • 成分量による乳化型の分類

乳化剤の配合量が有機概念図上のどの位置に多く、また、その配合量がどのように分布しているのかにより、乳化型(A型orB型)の分類を行います。

図5.配分量による乳化型の分類

図5.配分量による乳化型の分類

乳化型 型の解説
A A線付近に乳化剤が多く存在
全成分中でα値の最小である油の次に小さい乳化剤(α値が2番目に小さい)からA線付近までに存在する全ての成分を油相乳化剤[OSAA]とし、A線から無機性軸までに存在する成分を水相乳化剤[WSAA]とします。
B B線付近に乳化剤が多く存在
B型乳化においてもA型乳化の場合と同様に、油の次のα値を有する成分からB線付近に存在する成分をOSAAとし、B線から無機性軸(水を除く)までに存在する成分をWSAAとします。
 
  • 手順4
  • 成分位置による分類

原点からの距離が最も長い乳化剤がA線、B線のどちら付近に位置しているか。また、最も有機性軸に近い成分および無機性軸に近い成分がそれぞれロケイトされた位置の原点からの距離により分類を行います。

図6.成分位置による分類

図6.成分位置による分類

長さのピークの説明
ℓA A線」付近に原点からの距離が最長の成分が存在する。
ℓB B線」付近に原点からの距離が最長の成分が存在する。
ℓ : S α値最小、最大成分までの距離が、「x>y」である。
S : ℓ α値最小、最大成分までの距離が、「y>x」である。
 
  • 手順5
  • 性状・使用感の予測

処方の「乳化型」「成分位置による分類」から、当社オリジナルの「質と量の傾向表」により、乳化物の性状・温度安定性・使用感などの予測を行います。

図7.既知処方の型による解析例

図7.既知処方の型による解析例

判定項目 結果 解説
A or B型 B型 B線付近に乳化剤が多い
ℓA or ℓB ℓA 処方成分中で原点からの距離が最長である成分はA線付近のEMALEX 720(No.7)である
ℓ:S or S:ℓ S:ℓ 原点からの距離が、α値最小成分(No.2)がα値最大成分(No.9)より短い
O:W O=35 有機軸からB線まで、4成分の和
W=65 B線から無機軸まで、6成分の和
OSAA:WSAA OSAA=6.45 ミネラルオイルを除いた油相3成分の和
WSAA=1.6 水を除いた水相5成分の和
軌跡No. 6 傾向表により
 

「質と量の傾向表」は当社においてミネラルオイル、ノニオン界面活性剤および水から成る基本処方において種々のパラメーターを与えて乳化試験を行った結果をまとめたものです。限定された処方における評価にも関わらず、一般的な処方の性質、傾向とも非常によい一致を見せることを実績として確認しております。

質と量の傾向表(抜粋)

図8.質と量の傾向表(抜粋)

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4有機概念図講習のご紹介

「有機概念図による乳化処方設計」は厳密な科学ではなく、多くの乳化処方開発において実用的な実績を重ねた手法となります。当社では、「質と量の傾向表」を理解することで、ユーザーの皆様へ迅速に既知処方の性状予測や新規処方のご提案をさせていただき、「有機概念図による乳化処方設計」の更なる発展を目指し日々研究を重ねております。
僭越ながら、ご興味をお持ちになられたお客様への無料講習も当社セミナールームにて随時実施させていただいておりますので、お気軽にお問い合せください。

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